骨粗鬆症の薬物治療〈総論〉 (8)

骨粗鬆症とは骨強度が低下し、骨折の危険性が増大した状態です。当院では骨折が原因で健康寿命や生命予後を短縮する患者さんを一人でも多く減らすべく、骨粗鬆症診療に力を入れています。骨粗鬆症自体は痛くも痒くもありません。患者さんが何かの訴えを持って受診することは少ないです。そのため整形外科外来に膝痛や腰痛など他の主訴で来院される患者さんに対し、医師が能動的に骨粗鬆症の検査をしなければ発見することは困難です。また、骨密度健診の重要性を啓蒙し続けていくことが大切と考えています。

骨粗鬆症の薬物治療開始基準

さて、骨粗鬆症治療の目的とは何でしょうか。ただ骨密度を上昇させることが治療の目的ではありません。骨粗鬆症治療の最大の目的は骨折を起こさないことであり、骨折をしない健康で豊かな人生を手に入れることです。骨粗鬆症の予防や治療に食生活(主にビタミンDの充足)と運動(ウォーキング、フラミンゴ療法、スクワット、背筋強化訓練)が欠かせないことを書きました。ただ、骨粗鬆症を治療し骨折を予防するために薬物治療が必要なケースがあり、今回は薬物治療の開始基準について述べます。

骨粗鬆症診療では骨密度の結果のみで薬物治療を導入している訳ではなく図1(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年度版より抜粋)の開始基準に則っています。

図1

骨密度が70%よりも低い患者さんは骨折のリスクが高いため薬物治療開始となります。また、骨密度に関わらず図2のような脆弱性骨折が既に存在する患者さんにも薬物治療を導入します。

図2

椎体骨折が既に存在する患者さんは次の圧迫骨折を起こすリスクが約4倍になり、さらに大腿骨近位部骨折を起こすリスクが3~5倍に増えるからです。大腿骨近位部骨折を起こした患者さんは反対側を骨折するリスクが約4倍に増えます。骨折の連鎖を食い止めるために薬物治療が必要なのです。また、骨密度が70%から80%の間の方でも、図2以外の骨折歴を有する方や、ご家族に大腿骨近位部骨折歴のある方、年齢・性別・生活歴などを考慮して骨折のリスクが高いと判断した場合は薬物治療の開始となります。

大腿骨近位部骨折

骨粗鬆症の薬物治療にはさまざまなものがあり、今後のコラムで簡単に薬物治療に関して述べる予定です。ただ、一つの薬剤で治療が完結するものではなく、大切なのは継続です。

徳島健生病院 整形外科科長 峯田 和明 医師