高血圧について
Ⅰ.高血圧
- 日本の正常血圧は診察室血圧140/90mm/Hg未満と定義されています。75歳未満の成人や併存疾患(糖尿病、蛋白尿陽性など)を持つ場合は診察室血圧130/80mm/Hg未満を降圧目標とします。
- 診察室血圧の目標が130/80mm/Hgの場合、家庭血圧に置き換えると5mmHgだけ下げて125/75mm/Hgになります。
- 家庭血圧は1日2回(朝・夜)測定します。
- 朝は起床後1時間以内で、排尿後かつ朝食・服薬前に測定します。夜は就寝直前に測定し、入浴や飲酒の直後は控えます。測定した血圧値は血圧記録帳に記入します。
- 慢性腎臓病(CKD)患者で、収縮期血圧120mmHg未満を目指した厳格降圧療法が収縮期血圧140mmHg未満を目指した標準降圧療法と比較して、全死亡を有意に抑制し、心血管死も抑制する成績があります。たった20mmHgの差のようですが、生命予後に大きな差が出るのです。
Ⅱ.症例提示
- 医師国試問題を解いてみましょう。難問で正解率は55.3%です。
- 42歳の男性。高血圧症治療中の父が脳梗塞を発症したため、自身の血圧を心配して来院した。職場の健康診断は毎年受診しているが、異常を指摘されたことはない。喫煙歴はない。12年前からビール350mLを毎日飲んでいる。運動は月に1回のゴルフを10年間、身長175cm、体重70kg、脈拍72/分、整、血圧164/92mmHg、心音に異常を認めない。腹部に血管性雑音を聴取しない。浮腫を認めない。
- 問題:まず勧めるのはどれか。
a禁酒 b運動療法 c体重の減量 d降圧薬の内服 e家庭血圧の測定
Ⅲ.解説
- 今まで高血圧は指摘されてなく、高血圧の家族歴があり、初回の診察室血圧はⅡ度(中等度)高血圧です。適量の飲酒で、BMI22.8で肥満は認めません。しかし運動不足が考えられます。
- 本例は初回診察だけで治療は開始しません。
- 一般に180/120mmHg以上の高度の血圧上昇、臓器障害を伴う場合、高血圧性緊急症が考えられますが、本例はその可能性は低いです。
- 答えは「e家庭血圧の測定」です。このことによって、白衣高血圧と仮面高血圧の有無がわかります。
- 私は臓器障害の評価として、心電図(左房負荷、左室肥大、虚血性変化、不整脈など)と尿検査(蛋白尿)が簡便ながら情報量が多いので、よく用います。
Ⅳ.まとめ
- 家庭血圧計の普及により血圧測定が容易になり、家庭血圧が高血圧診療の「ゴールド・スタンダード」になりました。本稿ではふれませんでしたが、マンシェットの巻き方や測定時の姿勢など「正しい血圧測定」を心がけてください。
- 降圧目標は目の前の「血圧を下げること」も大切ですが、「心血管イベントの減少」、「臓器障害の進展抑制」、「生命予後の改善」にあることを忘れないでください。
(参考)
『クエスチョン・バンク2016(第1巻C心臓・脈管疾患)第25版』:メディックメディア、2015
『病気がみえる(第2巻循環器)第5版』:メディックメディア、2021

徳島健生病院 内科・総合診療科 古川民夫