骨粗鬆症性椎体骨折に対する早期手術の取り組み~経皮的椎体形成術~

【骨粗鬆症性椎体骨折とは】

骨粗鬆症性椎体骨折とは骨粗鬆症に起因する背骨の骨折のことです。骨粗鬆症とは骨が脆くなることにより軽微な外力(尻もちやくしゃみや重いものを持ち上げたなど)で骨折してしまう状態です。

【骨粗鬆症性椎体骨折の問題点】

骨粗鬆症性椎体骨折の2/3は無症状です。
いわゆる“いつの間にか骨折”と呼ばれるものです。知らない間に背骨が骨折し曲がってしまいます。背骨が曲がるとセルフイメージが低下します。つまり自分の容姿に自信が持てなくなります。そして歩行能力が低下します。バランスも悪くなり転倒しやすくなります。重症になると逆流性食道炎や心肺機能低下をきたす場合もあります。生命予後も短縮すると報告されています。

1/3の骨粗鬆症性椎体骨折は痛みを伴います。体動時の腰痛や背部痛により寝込んでしまうほどの痛みです。寝返りをすることも困難で救急車で運ばれる方もいます。高齢者は臥床状態(寝たきり)が続くと、1日当たり1.5%の筋力を喪失すると報告されています。さらに認知機能の低下や誤嚥性肺炎や床ずれなどのリスクが増加します。

【入院を要するほどの疼痛を伴う骨粗鬆症性椎体骨折の治療】

少し前までは保存治療が主流でした。疼痛が軽減するまで2-3週間程度安静にしてから、作成したコルセットを着用し離床をしてリハビリテーションにより失ってしまった筋力を取り戻す治療です。先述の通り安静臥床時間が長いほど大きく筋力を失うので、その分リハビリテーションに時間がかかります。数か月もの間入院していたのが普通でした。

認知機能の低下や誤嚥性肺炎などの合併症や床ずれの治療でもっと長い時間の入院を余儀なくされ、自宅に帰れず施設や長期療養型の医療機関に退院される方も少なくない状況でした。また、保存的治療を行った場合に骨折した椎体は大きく潰れてしまうこともあり、中には脊髄性の麻痺を起こして大手術をしなければならない方もいました。

そのような経験を踏まえ、当院では入院を要するような疼痛を伴う患者様に早期に手術治療を行い、早期の離床を可能にすることで合併症を減らし、かつ出来るだけ骨折椎体を潰さないことを目指してきました。その手術治療とは経皮的椎体形成術です。

【経皮的椎体形成術とは】

経皮的椎体形成術は小さな皮膚切開で骨折椎体を出来るだけ元通りに形成する手術方法のことです。皮膚切開はわずか2-3 mmです。メスの先で皮膚をつつくだけの切開創で手術時間はわずか30分程度です。患者様に負担が少ない超低侵襲の治療だと思って行っております。全身麻酔での手術にはなりますが、麻酔の時間も1時間以内と短いためやはり負担は少ないと考えております。

図1のように切開創から器具を挿入し椎体内でバルーンを膨らませた後に出来た空洞に骨セメントを充填する簡単な手技です。Balloon Kyphoplasty (BKP)というデバイスを使った手術です。

図1

最近では図2のようにセメントだけでなく金属ステントを用いて出来るだけ術後に椎体が潰れないような手術も導入しております。Vertebral body stenting system (VBS)というデバイスを使った手術です。

図2

【経皮的椎体形成術の効果】

まずは術後に患者様は手術創部の痛みをほとんど訴えません。手術と聞くと術後の創部痛が怖い方がいらっしゃると思いますが、この手術は術後に創が痛くない手術です。術前は寝返りも出来ない患者様が、術後早期に寝返りが可能になり翌日からは車いすに移って歩行訓練も開始できるようになります。以前に保存治療を行っていた時には数か月を要していた入院期間も大幅に短縮します。早い人では翌日に退院される方もいます。もちろんすべての患者様の痛みが100%取れているわけではありません。多くの方が満足して頂ける手術ではありますが、中には除痛効果が不十分であったり、隣接椎体骨折といって手術をしてから2カ月以内に新しい椎体骨折を起こす方もいます。

当院の調査や他の施設の報告から原因を検討したところ、術前に椎体が潰れていればいるほど除痛効果が不十分であったり、隣接椎体骨折のリスクも増えます。要するに椎体骨折を受傷してから早期に手術を行った患者様の方が術後成績が良いということです。このことからも、入院を要するほどの骨粗鬆症性椎体骨折に対して当院では、出来るだけ骨が潰れる前に早期に経皮的椎体形成術を行う取り組みを行っており、今後も継続していく方針です。

さいごに

ここで書いてあることはあくまでも手術治療の紹介であって、椎体骨折を起こしても手術すれば問題ないということではありません。骨粗鬆症性椎体骨折は骨粗鬆症が原因ですので、骨粗鬆症の早期発見・治療を行うことで椎体骨折の予防をしていくことのほうが手術治療よりもはるかに良い治療なのです。もちろん、手術治療を行った患者様に対しても骨折の連鎖を断ち切るために骨粗鬆症治療を入院中に導入し、退院後も頑張って継続して頂いております。

当院は骨粗鬆症センターとして一人でも多くの方々の骨の健康を守るために病院全体で骨粗鬆症の早期発見と治療に取り組んでおります。まだ骨密度を測ったことが無い方は、一日でも早く、健診科にて骨密度健診を受けてみてください。当院は骨粗鬆症専門外来を行っております。いつでも気軽に予約をとって受診をしてください。

徳島健生病院・骨粗鬆症センター 整形外科科長 峯田和明
Tokushima Kensei Hospital
Osteoporosis Center
Head of Orthopedic Surgery
Kazuaki Mineta