骨卒中治療に対する取り組み

 “骨卒中”という言葉を聞いたことがありますか。脳梗塞や脳出血を脳卒中と呼ぶように、骨粗鬆症を背景に発症する大腿骨近位部骨折や脊椎圧迫骨折を骨卒中と呼んでいます。具体的には「転倒」などそれほど大きくない力によって引き起こされた足の付け根や背骨の骨折です。超高齢化社会を迎える日本では骨卒中はもはや国民的病(やまい)であり、2030年には大腿骨近位部骨折が年間30万人、脊椎圧迫骨折はそれ以上の方に発生するとされます。これは2030年の徳島県の人口を65万人、日本の人口を1億1600万人と推定した場合、徳島県で年間およそ1683人の方が大腿骨近位部を受傷される計算になります。1日当たり4.6人です。脊椎圧迫骨折はこれよりも多いと推測されるわけですから、かなりの人数になります。

 骨卒中は頻度が高いのみでなく、大腿骨や脊椎といった人体における重要な部位の骨折により、強い痛みを発生させ、移動能力を失わせる特徴を持つ危険な疾患です。骨卒中は即座に命を落とすような疾患ではありませんが、高齢者にとっては一度失われた移動能力(立ったり、歩いたりする力)を取り戻すことは非常に困難です。そのためできるだけ早く治療を開始して痛みを取り除き、移動能力を再獲得させることが重要です。

 一般的に骨卒中を来すとその時点から強い痛みが生じ、立ったり歩いたりすることが困難になりますので多くの方は救急車を呼び病院を受診します。当院では出来る限り早期に診断を行い、入院および早期の手術治療を提供できるよう努めています。大腿骨近位部骨折に対しては整形外科学会のガイドライン上でも、骨折後48時間以内の早期手術が推奨されるようになり、その重要性は徐々に認知されるようになってきました。

 一方で脊椎圧迫骨折に対する手術治療は実施できる医療機関が限られることから、まだ早期手術はガイドラインで推奨されるには至っていません。しかし、術直後より背中の痛みが軽減し翌日に歩行器を使用して歩いている患者さまをみていると、できるだけ早期の手術介入により移動能力を比較的保つことが可能になるのではないかと考え、病院全体の取り組みとして早期手術に努めています。
(※骨折型や骨折部位、術後の痛みの感じ方などにより術後の経過には個人差があります)

 早期手術を行うことは患者さまにとって最良の選択と考えていますが、場合によっては難しいこともあります。患者さまの多くは、上述の通り救急車で搬送されて来られるため、あらかじめスケジュールを確保できません。

 また、安全に手術ができることも重要です。たとえば心臓や肺に持病があって全身麻酔が危険な方や、状態の悪い糖尿病の方、胆嚢炎などの急性期疾患を同時に患っている方など、手術が早期に実施しにくい方もいます。当院で対応しかねるような重症例ではより高度な医療機関に紹介をすることもあります。

 早期手術の実現のためには、救急を担当している医師や外来看護師、検査技師や放射線技師、病棟看護師、内科医、麻酔科医、手術する整形外科医や手術室スタッフなど、多くの協力が不可欠です。

今後もできる限りの早期手術が提供できるよう、スタッフ一同取り組んでいくよう努めてまいります。

徳島健生病院 整形外科 鎌田光洋